ShapewaysでreTerminal用の電子基板ケースを3Dプリントした

ShapewaysでreTerminal用の電子基板ケースを3Dプリントした

reTerminalがSeeedから発表されたのは2021年の4月のこと。 Raspberry Pi CM4にディスプレイを搭載し、立派なケースに収められてすぐに使えるように作られているとても魅力あふれる製品だ。

技適を通過していないRaspberry Pi CM4の無線モデルを搭載していることから、Seeed Studio Bazaarから直接買っても国内で利用することができず、技適の取得に1年2年待たされるものだと悟ったため、頭の中から存在を消し去っていた。 それから1年が経とうとしている2022年2月、reTerminalを手にするツイートをちらほら見かけ、昨年10月に日本でも購入・利用ができるようになっていたことを知った。国内販売にあたってCM4単体としてではなく、reTerminalとして技適を取得したようだ。

総務省 電波利用ホームページ | 技術基準適合証明等を受けた機器の検索

[速報] reTerminal日本国内販売開始 - Seeed K.K. エンジニアブログ

ついうっかりポチってしまったが、毎度のことながら利用目的が特に定まっておらず箪笥の肥やしになる運命にあった。 そんな悲しい運命を打破するためにか、ProtoPediaなる開発支援サイトでreTerminalの活用コンテストを行なっていた。 みなこれをきっかけにreTerminalを購入していたようだ。

Seeed reTerminal 拡張モジュールコンテスト | ProtoPedia

コンテストの応募資格は側面か背面にある拡張端子にくっつけるモジュールを試作していることとある。 ハードウェアが絡むプロトタイピングはしばらくやっていなかったこともあり、ものづくりを久々にしっかりやるかという気持ちになった。

このコンテスト参加において、拡張モジュールを試作しケースを発注するに至るまでの記録をここに残す。

目次

Open 目次

  1. reTerminal
    1. reTerminal拡張コネクタ
  2. HDMI入力拡張モジュール
  3. reTerminalの寸法と拡張モジュールサイズ
  4. 拡張モジュール設計
    1. 3Dモデル書き起こし
  5. Shapewaysに発注
    1. 素材の選定
    2. 製造と到着
    3. 仕上がりの確認
  6. まとめ

reTerminal

そもそもreTerminalとは何かというところを軽くまとめておく。 主に次のパーツで構成されているOut of the BoxなIoT端末ハードウェアだ。

  • Raspberry Pi CM4 [CM4104032]
  • 5インチ 1280x720 DSI接続マルチタッチディスプレイ
  • 2x USB 2.0 Type-A
  • 1x 1GbE
  • 1x micro HDMI
  • 各種センサー/RTC/暗号用コプロセッサ
  • 側面と背面の拡張コネクタ

reTerminal拡張コネクタ

reTerminal GPIO

側面に搭載の拡張コネクタは、コンピュータモジュール版ではないRaspberry Piに備え付けられた40pinコネクタとほとんど互換性のある40ピンが接続できるようになっている。 完全な一致ではなく、GPIO 6とGPIO 13が削られUSB D-/D+が追加されている。 その40ピン端子の下には、MIPI CSI-2カメラのFFCケーブルを通すことのできる穴が空いている。

reTerminal GPIO pinout 引用元: https://wiki.seeedstudio.com/reTerminal/#pinout-diagram

背面にもPCIeが使える拡張コネクタがあるが、詳しい情報は見つからなかった。

主にこの側面の拡張コネクタに接続するものをreTerminal拡張モジュールと呼び、このモジュールのプロトタイピングを今回は行うことになる。

HDMI入力拡張モジュール

実は拡張モジュールのアイデアは昨年4月のreTerminal発売の知らせを聞いた時に既に浮かんでいた。HDMI入力拡張モジュールだ。

HDMI入力をRaspberry PiのCSI-2接続で遊ぶ記事は2年前に書いたが、この仕組みを実用するにはケースが不可欠だと思いながら執筆をしていた。 Raspberry PiのHATとして積み上げる形のケースを考えたりもしたが、結局うまくまとめられなかったので諦めていた没ネタの一つだ。

HDMI入力をRaspberry Piで駆使する HDMI入力をRaspberry Piで駆使する

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reTerminalは堅牢なケースに収められていて、加えてタッチ対応720pディスプレイが搭載されている上に、直感的に操作可能なボタン4つが画面のすぐ下にある。 そして何よりもGPIOとMIPI CSI-2ケーブルを取り出せる拡張モジュールをネジで固定できるように作られていることから、HDMI入力基板をケースに収めて拡張モジュールにするには相性ピッタリだ。

ということで、色々と設計を始めた。

reTerminalの寸法と拡張モジュールサイズ

reTerminal-dimension

拡張モジュールを作る人に向けてなのか、reTerminalのSTEPファイルがSeeedのWikiで配布されている。この3Dモデルで寸法を測定した。

突起部分を除けば、横138.989mm 縦94.791mm 高さ20.897mmとなっている。おおよそ商品ページの140mm x 95mm x 21mmと同じである。 横に取り付けるので横幅はモジュールの中身次第で増減するとして、縦95mm 高さ21mmのケースを用意する必要がある。

プロトタイピングにちょうどいいサイズのケースを買えないかと探していたところ、aitendoにピッタリなケースが売られていた。

プラケース [C95X54X23] - aitendo

aitendo-case

縦95mm 横54mm 高さ23mmと、高さこそ2mm高いがほぼ拡張モジュールサイズの、そして加工の容易なABS素材のケースが150円で売られていた。 早速これを使ってだいたいのレイアウトを考えていく。

拡張モジュール設計

I2SでHDMIの音声信号をやりとりするため、映像のCSI-2のケーブルだけでなくGPIOも拡張モジュールに接続する必要がある。 なので40ピンソケットを取り付けHDMI入力基板を配置する前提で、他に色々と機能を足し算していく。 ボリュームを調整するスライドポテンショメータや音量表示のVUメーターなど、直感的な操作ができる部品を取り付けることを考えていた。

case-layout

ケースにHDMI入力基板とパーツを置いてみたところ、予想に反し他の基板やケースに干渉してしまい、このサイズ感ではどれも追加できないことに気づいた。 唯一手元にあったパーツの中ではPimoroni Button SHIMだけがうまく固定できそうだった。

Button SHIM – Pimoroni

3Dモデル書き起こし

hdmi-ex-3d-model-bottom

Autodesk Fusion 360を使ってケースを組み上げていく。

Button SHIMの3DモデルはThingiverseで有志の方がCC BY-NC 4.0で公開してくれていたので、コーヒーをご馳走して位置合わせのために利用させてもらった。

Pimoroni button shim dummy by printminion - Thingiverse

基板の固定はM2.5のネジで、ケースの蓋の固定ははめ込みにした。

hdmi-ex-3d-model-top

完成した3Dモデルは以下で配布している。

mzyy94/reTerminal-HDMI-input: HDMI input expansion module for reTerminal - GitHub

Shapewaysに発注

やっと記事タイトルの内容にたどり着いた。 毎度のことながら業界最安値帯のShapewaysで発注する。 Shapewaysは過去数回使ったことがあるが、前回利用から間が空いたこともあって少しばかり勝手が変わっていたので、調べつつ発注を進めた。

素材の選定

一言に3Dプリントといっても印刷する素材にはいくつもの種類がある。そして素材の種類に加え、造形方式も複数存在するので選択肢は幅広い。 Shapewaysの取り扱う造形方式と素材の種類は20を超え、独特なマテリアル名が付けられ前回利用時からいくつか改名されていた。 仕様を読むに精度が求められるものにはMaterial Jetting光造形方式のFine Detail Plasticか、マルチジェットフュージョン方式のMJF Plastic PA12が良さそうだ。 昔は素材ページに体積あたりの価格が記載されていたのだが、いつのまにか無くなっていた。

マテリアル名素材造形方式精度最小凹凸価格帯
Fine Detail Plasticアクリル光造形± 0.3 - 0.7 mm0.1mm上の下
MJF Plastic PA12ナイロンMJF± 0.2 mm ± 0.5% of length0.2mm中の下
Versatile PlasticナイロンSLS± 0.15 mm ± 0.15% of axis0.2mm下の中

今回は値段の安く精度の高いMJF Plastic PA12を選んだ。ただ、MJF Plastic PA12は小さいものを作る場合には値段が上がるようで、ボタンはFine Detail Plasticの方が安い計算結果となった。なのでボタンをFine Detail Plasticで発注した。

cart-preview

製造と到着

order-status

日本時間2月12日の夜にShapewaysに作ったモデルの3Dプリントを発注した。 発送予定日は2月28日になっていたが、発注の翌日にはボタンの製造が始まり、その2日後にケースの製造が始まった。 わずか発注から5日で製造と梱包が完了してオランダから発送したとの連絡があり、2月24日に到着した。 世界が混乱するこの時代に、遅れるばかりか早く仕上がってきたのには少々驚いている。

package

日付内容
2月12日発注
2月13日Fine Detail Plastic素材の製造開始
2月15日MJF Plastic PA12素材の製造開始
2月17日UPSでオランダから発送処理
2月19日ドイツ・ケルンを経由
2月21日UAE・ドバイを経由
2月22日深圳・中国を経由
2月23日成田に到着
2月24日ヤマト運輸で配達

仕上がりの確認

detail1

きれいに仕上がってきた。MJFでの3Dプリントは初めてだが、噂通りザラザラした質感だ。面取りした部分や丸みを付けた部分も引っ掛かりがなく出来上がっている。

detail2

0.3mmの深さで刻んだ文字は判別に少々難があるものの読める程度、1.0mmの深さの文字ははっきりと読み取れるものだった。

detail3

detail4

さて、寸法の精度を見ていく。下図の黒字の寸法がCAD上での値、赤字の手書き文字がノギスを用いて計測した実測値となる。

model-dimension

外寸・内寸ともに大きな誤差は無く、精度に申し分ない。MJFで誤差が出る場合は小さくなる傾向があるようだ。

ネジ穴はFusion 360のネジ穴ツールでM2.5サイズで開けていたが、流石にMJFの精度ではネジ山が出来上がらず、ただの穴が空いているだけだった。 しかし径がぴったりのため、ねじ込んでみるとざらつきのあるこの素材がうまくネジで削られしっかりと基板をホールドできるだけのネジ穴として機能した。

screw-hole

screw-hole2

まとめ

printed-case

正直ここまで精度が高いものが出来上がるとは思っていなかった。 0.1mm単位の精度で足りる場合はMJF素材での出力でも十分とわかった。 精度が足りない場合や設計に問題があった場合に再設計を考えていたが、大きな問題はなかったのでこのケースで拡張モジュールコンテストに応募することにした。 投稿作品はこちら。

reTerminalとHDMI入力でゲーム配信! - HDMI入力拡張モジュール - | ProtoPedia

以上、ケースを作って拡張モジュールコンテストに応募するまでの記録でした。

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